小児心臓外科フェローのポジションを見つける ―― 日本にいるあなたが米国に渡るために

はじめに

過去2回の記事の通り、H-1B大統領令以降、日本人IMGの米国臨床留学はかつてないハードルに直面しています。しかし戦略を変えれば、いまも渡る道はあります。本記事では、特に小児心臓外科に絞って、日本にいる心臓外科医が米国でフェローのポジションを見つけるための具体的な方法を、可能性の高い順に整理してみます。

 

小児心臓外科は成人心臓外科以上に狭い世界です。日本人がこれまでにフェローとして働いたことのある米国施設は、私の知る限り15施設前後しか存在しません。逆に言えば、これらの施設は日本人を雇った実績があり、現在も体制が大きく変わっていなければ受け入れてくれる可能性が高いということです。まずはそこから始めるのが、最も成功確率の高い戦略になります。

1. 過去に日本人を受け入れた施設からアプローチする

これは私自身の経験と、ここ5年程度の日本人小児心臓外科医のキャリアトラックを踏まえたリストです。これらの施設は、Program directorやチェアが「日本人と仕事をしたことがある」ため、心理的ハードルが圧倒的に低いという特徴があります。

 

過去に日本人をnon-ACGME fellowとして受け入れた実績のある施設

 

  • Boston Children’s Hospital(特に多いところの1つ)

 

  • Cincinnati Children’s Hospital

 

  • Columbia University / NewYork-Presbyterian Morgan Stanley Children’s Hospital(特に多いところの1つ)

 

  • Children’s Hospital of Philadelphia (CHOP)

 

  • Medical University of South Carolina (MUSC) / Shawn Jenkins Children’s Hospital

 

  • Texas Children’s Hospital (Baylor College of Medicine)(特に多いところの1つ)

 

  • University of Michigan / C.S. Mott Children’s Hospital

 

  • Stanford University / Lucile Packard Children’s Hospital(特に多いところの1つ)

 

  • UCSF Benioff Children’s Hospital

 

  • University of Rochester Medical Center / Golisano Children’s Hospital

 

  • Nationwide Children’s Hospital (Columbus, OH)

 

  • Ann & Robert H. Lurie Children’s Hospital of Chicago

 

  • Children’s National Hospital (Washington DC)(特に多いところの1つ)

 

  • UPMC(15年くらい前)

 

近年、日本人が面接まで進んだことのある施設(受け入れ可能性あり)

 

  • NYU Langone Health / Hassenfeld Children’s Hospital

 

  • Phoenix Children’s Hospital

 

過去にattendingレベルで日本人を受け入れた実績がある施設

 

  • Arkansas Children’s Hospital(Little Rock)

 

  • University of Minnesota

 

  • University of Hawaii, Kapiolani

 

  • Phoenix Children

 

  • CHOP

 

  • University of Iowa

 

  • Nationwide Children’s Hospital (Columbus, OH)

 

  • Stanford University / Lucile Packard Children’s Hospital

 

  • Sutter Sacramento

 

  • Dell Children’s Hospital

 

  • Texas Children’s Hospital Austin

 

 

これらの施設のホームページから現在のprogram directorやchairの情報を確認し、CVとcover letterを準備した上でメールでアプローチするのが第一歩です。「過去にXX先生がフェローをされていた施設として知った」と一言添えるだけでも、メールの開封率と返信率が変わってきます。

 

2. CTSnetとCHSSの公募をモニタする

日本人を雇った実績のない施設からポジションを得るには、公募経由が現実的な王道になります。

 

CTSnet Jobs https://jobs.ctsnet.org

 

CTSnetには毎年秋から冬にかけて翌年夏スタートのフェロー公募が比較的多く出ます。タイミングを逃すと一気に埋まってしまうので、メールアラートを設定して新着情報をすぐに受け取れるようにしておくことが重要です。fellow, clinical instructor, congenital cardiac surgery、pediatric cardiac surgeryといったキーワードでフィルタを作っておくと効率的です。

 

CHSS Jobs https://chss.org/jobs/

 

Congenital Heart Surgeons’ Society(CHSS)のjob pageにも、不定期にフェロー情報が掲載されることがあります。CTSnetほど頻繁ではないですが、CHSSは小児心臓外科に特化した学会であり、ここに公募を出す施設は本気で募集していると考えていいでしょう。こちらはアラート機能がないので、まめにチェックすることをお勧めします。

 

3. 米国トップランキング施設のディレクターに直接アプローチする

これまでに日本人受け入れ実績がない施設でも、ポジション獲得の可能性はゼロではありません。むしろH-1B大統領令以降、施設側も人材確保の選択肢を広げる必要に迫られています。日本でしっかりトレーニングを積んだ候補者は、施設にとっても貴重な選択肢になり得ます。

 

U.S. News Best Children’s Hospitals – Cardiology and Heart Surgery Rankings https://health.usnews.com/best-hospitals/pediatric-rankings/cardiology-and-heart-surgery

 

このランキングの上位50施設を上から順に調査し、program directorやdivision chiefの連絡先を探してCVとcover letterを送ります。打率は低いですが、絶対数を増やせばチャンスは広がります。50通送って2-3通の返信、1施設の面接、というのが現実的なラインでしょう。

 

STS Public Reporting https://publicreporting.sts.org/chsd

 

施設選びの際には、STS Congenital Heart Surgery Databaseの公開レポートも併せて参照すべきです。最新の手術件数(STAT category別)と成績がわかるので、自分が学びたい複雑度の症例が十分にある施設かどうかを判断できます。「ランキングは高いが症例数が少ない」「ランキングは中位だが特定領域の症例が豊富」といった施設の実像が見えてきます。

 

メールには相手施設の症例数や強みに言及した上で、自分が学びたいこと・貢献できることを明確に書きます。テンプレートメールではなく、施設ごとにカスタマイズすることが返信率を大きく変えてきます。

 

4. 国際学会で物理的な関係を築く

メールだけで決まる時代は終わりつつあります。$100,000のリスクを取って日本人を雇うかどうかの判断は、CV以上に「この人と一緒に働ける」という肌感覚に依存します。それを作るには、現地で会うのが最も効率的です。そう、時代はウェブの時代からin-personつまり対人の時代に逆戻りしているのです。

 

私が考える小児心臓外科医が参加すべき主要な学会は次の3つです。

 

  • AATS (American Association for Thoracic Surgery) :毎年4-5月開催、心臓外科最大の学会

 

  • STS (Society of Thoracic Surgeons) :毎年1月開催、症例数と臨床に強い

 

  • CHSS (Congenital Heart Surgeons’ Society) :毎年秋開催、小児心臓外科に特化、規模は小さいが密度が高い

 

ポスター発表でも口演でも、現地に行けば交流の機会は確実にあります。CHSSは特に小規模で、attendingと直接話せる時間が取りやすいのが特徴です。発表できれば理想的ですが、聴衆参加でも価値はあります。とはいえ、現地参加しても受け身では誰も話してくれません。自分から積極的に有名な先生に話しかけるくらいの気合と根性は必要になります。今の時代に合わないかもしれませんが、正直アメリカ生活でコミュ障は致命的なので、なんとか頑張るしかないです。

 

実際、私自身も渡米前にこれらの学会に出席し、リアルな関係性を築いた経験があります。メールでは返事がなかった人と現地で立ち話ができ、それがきっかけで道が開けたケースは少なくありません。

 

5. 手術見学(Observership)から関係を作る

これは私自身が実際に渡米前に行った方法であり、特に強くお勧めしたい戦略です。

 

手術見学(observership)は、フェロー採用と比べてはるかに受け入れハードルが低いです。多くの施設は1-2週間程度のobservership受け入れに比較的好意的で、短期であればESTAで対応可能です。ビザサポートも雇用契約も不要なので、施設側のコミットメントは最小限で済みます。

 

実行手順

 

  • 興味ある施設のホームページから小児心臓外科部門のpageを開く

 

  • attending surgeonsのリストを確認。特にdirector。

 

  • 該当attendingのメールアドレスを探し(大学webサイト、PubMed、ResearchGate等)、直接コンタクトを取る

 

  • 自己紹介、訪問希望期間、学びたい内容を簡潔に書いたメールを送る

 

  • 返信があれば、administratorやobservership coordinatorへの紹介をしてもらい、必要書類を準備(これら一連の過程も将来渡米に際して貴重な経験となります!)

 

Observershipの本当の価値は、見学そのものではなくその後に残る関係性です。1-2週間滞在することで、program directorや関心領域のattendingと顔の見える関係を作れます。彼らがあなたの真面目さや臨床的バックグラウンドを目で見て確認できれば、後にフェロー候補として声がかかる確率が劇的に上がります。

 

私の経験では、observershipで訪問した施設からフェローの話が来たり、その施設のattendingが別施設のチェアに紹介してくれたりすることが実際に起きました。これは$100,000時代であっても変わらない構造だと思います。

 

ちなみに、私は2017年にアナハイムで行われたAHAでポスター発表を行い、その際にスタンフォード大学とトロントのSickKidsを見学させていただきました。いずれも日本人のアテンディングの先生のメールアドレスをホームページで見つけて、全く面識はありませんでしたが連絡をとってみたら、思いのほか快く承諾してくれました。スタンフォード見学の際に、2年後の2019年からであればリサーチのポジションが開くけどどうか?という話をいただき、二つ返事でその場で決めたことが私のアメリカ留学の始まりとなるエピソードです。

 

戦略の優先順位

以上を再度整理します。

 

  • 過去に日本人を受け入れた施設へアプローチ:心理的ハードルが最も低い、最初に試すべき

 

  • CTSnetとCHSSの公募モニタ:秋から冬にかけて重点的にチェック、アラート設定必須

 

  • U.S. Newsランキング上位施設への網羅的アプローチ:打率は低いが絶対数で勝負

 

  • 国際学会への現地参加:AATS、STS、CHSSで物理的な関係を築く

 

  • Observership経由:1-2週間の見学で施設内に「知っている人」を作る

 

これら5つは排他的ではなく、すべて並行で動かすことをおすすめします。「ひとつ試してダメだったら次」ではなく、「すべて同時進行」が小児心臓外科という狭き門を突破する現実的な姿勢だと考えています。

 

おまけ:参考動画

手前味噌で恐縮ですが、私のYouTubeチャンネル「オペざんまい」でも、小児心臓外科の米国臨床留学について語っている動画がいくつかあります。本記事と併せて参考にしていただければ幸いです。

 

https://youtube.com/@opezanmai

 

おわりに

H-1B大統領令で全体のハードルは確実に上がりました。しかし「USMLEをクリアして数ヶ月で見つかる」モデルが終わっただけで、戦略を変えれば道は今も開いています。

 

特に小児心臓外科という極めて狭い世界では、ランダムに広く投げかけるよりも、過去の実績、現在進行形の公募、トップランキング施設への直接アプローチ、現地での関係構築という4-5チャネルを並行運用することが、いまも昔も変わらない王道だと思います。

 

ひとつだけ確実に言えるのは、日本にいて待っているだけでは何も始まらないということです。CTSnetのアラート設定、AATSの参加登録、興味ある施設のホームページ調査、observership依頼メールの送信――いずれも今日から始められることばかりです。

参考リンク

 

 

 

 

 

 

 

 

本記事は筆者個人の経験と2026年5月時点の情報に基づきます。実際の申請判断は必ず米国移民弁護士および希望先施設との個別相談に基づいて行ってください。

 

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