- 1 はじめに
- 2 日本人医師がアメリカに渡る5つの手段
- 3 2-year ruleとは何か ―― 留学者を縛る最大の制約
- 4 ① J-1 research scholar ―― 最も使いやすいJ-1
- 5 ② J-1 ECFMG(J-1 clinical)―― 伝統的な臨床留学ルート、ただし呪縛つき
- 6 J-1 waiver ―― 呪縛を解く唯一の鍵、その複雑さ
- 7 ③ H-1B ―― かつての王道、今は過去の話
- 8 ④ O-1ビザ ―― 取得不可能ではないが、限られた人の選択肢
- 9 ⑤ Green Card(永住権)―― 実はもっとも確実な選択肢かもしれない
- 10 自分はどのビザを目指すべきか
- 11 おわりに
- 12 関連記事
- 13 参考リンク
はじめに
ここ数回、H-1B大統領令の影響と新しい渡米戦略について連続で記事を書いてきました。読んでくださっている方の中には、おそらくこう思った方も多いと思います。
「そもそもJ-1とかH-1Bとかグリーンカードとか、用語が多すぎて整理しきれていない」
「2-year ruleって、結局何のことを指しているのか曖昧なまま聞き流してきた」
「O-1ビザという選択肢があると最近よく耳にするが、自分には関係あるのか分からない」
これらは留学を本気で検討し始めた段階で誰もが一度はぶつかる壁です。実際、私自身も渡米前は移民法を調べるたびに頭が痛くなりましたし、今でも完全に理解できているとは到底言えません。
本記事では、心臓血管外科医をはじめとする日本人医師がアメリカ臨床留学をする際に登場する5つのビザ・在留資格を整理し、留学者全員の頭を悩ませる2-year rule(2年間の本国居住義務)について、なるべく平易な言葉で解説してみたいと思います。これから渡米を考えている方が、自分の立ち位置から逆算してどのビザを目指すべきかを判断する材料になれば幸いです。
なお本記事は法的助言ではありません。実際の申請にあたっては必ず米国移民弁護士に相談してください。
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日本人医師がアメリカに渡る5つの手段
ざっくり整理すると、医師として米国に行く方法は次の5つに集約されます。
| ビザ・在留資格 | 主な用途 | 2025年9月までの実情 |
| J-1 research scholar | 基礎・臨床研究 | リサーチ留学のほぼ全員がこれ |
| J-1 ECFMG(通称J-1 clinical) | レジデンシー・フェロー | レジデンシー渡米組の多数派 |
| H-1B | フェロー・アテンディング | フェロー渡米組の大多数が選択 |
| O-1 | 極めて卓越した能力を持つ医師 | ごく一部のスター候補のみ |
| Green Card(永住権) | 米国に長期滞在する全ての医師 | 業績次第で日本から自己申請可能 |
2025年9月までは、フェローシップで渡米するほとんどの医師がH-1Bを選択していました。レジデンシーから入る場合は、ECFMGがスポンサーするJ-1 clinicalで渡るケースが多かったと思います。
しかし、2025年9月19日のトランプ大統領令によって、この景色は大きく塗り替えられました。詳細は過去記事をご覧ください。
📎 関連:[H-1B新規申請料$100,000の衝撃 ―― 日本の心臓血管外科医にとっての渡米ルート再考]
📎 関連:[USMLEだけでは渡れない海 ―― 大統領令以後、日本人心臓外科医のための新・渡米戦略]
ここからは、それぞれのビザを順に見ていきます。
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2-year ruleとは何か ―― 留学者を縛る最大の制約
各ビザの解説に入る前に、避けて通れない概念があります。それが2-year home residency requirement(2年間の本国居住義務)、通称「2-year rule」です。条文上はINA §212(e)に規定されており、移民実務でも「212(e)」と呼ばれます。
一言でいうと
「J-1ビザでアメリカに滞在した一定の人は、J-1終了後に最低2年間、母国に戻って居住しないと、その後H-1B・L-1ビザを取得することも、グリーンカードを取得することも、永住目的の入国も認められない」というルールです。
正確には次の3つが禁止されます。
- H-1Bまたはl-1ステータスへの変更・取得
- 永住権(グリーンカード)の取得
- 米国へのimmigrant visa(移民ビザ)またはfiancé(e) visaでの入国
つまり、J-1 clinicalで2-year ruleが発動した医師は、フェロー終了後にそのまま米国で働き続けることが原則できないということです。多くの先輩医師が「212(e)の呪縛」と呼ぶのはこのためです。
2-year ruleが発動する3つの条件
すべてのJ-1ビザに自動で適用されるわけではありません。次のいずれかに該当する場合に発動します。
- 米国政府または母国政府からの資金援助を受けている場合
(例:文科省のフェローシップ、NIHグラントなど)
- 当該分野が母国の「Skills List」に掲載されている場合
(日本のSkills Listに「医学」自体は載っていませんが、個別領域の確認は必要です)
- ECFMGがスポンサーするJ-1 clinical(=臨床業務を行うJ-1)の場合
⇒ これは無条件で2-year rule発動
3つ目が決定的です。ECFMGスポンサーのJ-1 clinicalは、ファンディング源や領域に関係なく、法律上自動的に212(e)の対象になります。
つまり、現実問題として:
- J-1 research scholar ⇒ 原則として2-year ruleはかからない
- J-1 clinical(ECFMGスポンサー)⇒ 100%、2-year ruleがかかる
この違いを理解することが、留学戦略の出発点となります。
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① J-1 research scholar ―― 最も使いやすいJ-1
リサーチフェローで渡米する場合に使われる、いわゆる「J-1リサーチ」です。
特徴
- スポンサー:受入施設(大学・研究機関)
- 期間:原則5年まで
- 臨床業務:できない(観察・教育目的のobservershipは可)
- 2-year rule:原則対象外(ただし政府ファンディングを受けた場合は対象)
最大の強みは、2-year ruleが原則かからないため、J-1 research中に米国内でH-1BへChange of Status(COS)を申請でき、しかも前回のH-1B記事で書いた通り、米国内でのCOSは$100,000の対象外であることです。
H-1B大統領令以降、「日本から直接H-1B」がほぼ閉ざされた今、米国内に足場を作るための入口として、J-1 researchは戦略上の重要度が一気に上がりました。
ただし注意点が2つあります。
- 文科省のフェローシップやJSPS海外特別研究員、AHA grantなど政府系資金を受け取った場合は2-year ruleが発動します。お金をもらう前にDS-2019上の表記とfunding sourceを必ず確認してください。
- リサーチ中は臨床業務が完全に不可です。手術室に入って手を出すことはもちろん、外来で患者を診ることもできません。心臓血管外科医にとってこの数年間は、手術から離れる期間になります。
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② J-1 ECFMG(J-1 clinical)―― 伝統的な臨床留学ルート、ただし呪縛つき
レジデンシー、もしくはACGME認証下のフェローシップで渡米する場合に使われる、いわゆる「J-1クリニカル」です。
特徴
- スポンサー:ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)一択
- 期間:原則7年まで
- 臨床業務:可能(これがJ-1 researchとの最大の違い)
- 2-year rule:100%発動(例外なし)
ECFMGはJ-1 clinicalの単独スポンサーであり、これを介さずに臨床J-1を取得することはできません。
どこかの病院に就職する場合も、病院側がECFMGにこのビザの申請をして、実際にスポンサーとなるのはECFMGです。
(注)問題は、2023年頃よりECFMGが特にnon-ACGME fellowshipのポジションに対して、J1 ECFMGスポンサーを厳しく制限すると明言しており、いわゆる非正規フェローでこのビザを取得するハードルも上がってきているというのが現状です。
レジデンシーから渡米する日本人医師の多くがこのルートを使ってきました。なぜなら、レジデンシーは原則ACGME認証下にあり、H-1Bでのスポンサーは施設側のハードルが高く、現実的にはJ-1 clinicalが最も通りやすい選択肢だったからです。
何が「呪縛」なのか
繰り返しになりますが、J-1 clinicalで渡米した医師は、トレーニング終了後に次のいずれかを選ばざるを得なくなります。
- 素直に日本に2年間帰国する
- J-1 waiverを取得して米国に残る
- waiverもなしに米国を離れ、長期的に米国復帰を諦める
Aを選んだ場合、キャリアの連続性は完全に断たれます。米国でフェローを終え、執刀件数を積んでいる最中に2年間日本に戻ることがどれほどキャリアに影響するかは、想像に難くないと思います。
そこで多くの先輩がBのJ-1 waiverルートを目指すことになるのですが、これがまた一筋縄ではいきません。
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J-1 waiver ―― 呪縛を解く唯一の鍵、その複雑さ
(私自身、J-1 waiverをしたことがないので、以下の内容は一般的に知られている範疇です。間違った記載があった場合には是非教えてくださると助かります。)
「2年間の本国居住義務を免除してもらう」のがJ-1 waiverです。これを取得できれば、H-1BへのCOSも、グリーンカード申請も解禁されます。しかし、申請プロセスは決して簡単ではありません。
waiverには5つの種類があり、医師が現実的に使えるのは主に2つです。
waiverの5種類
| 種類 | 概要 | J-1 clinical医師の使用可否 |
| Conrad 30 program | 各州30枠、医療過疎地で3年勤務 | ○ 主流 |
| IGA(Interested Government Agency)waiver | VA、HHS、ARC、DRA等の連邦機関が推薦 | ○ 主流 |
| Hardship waiver | 米国市民/永住者の配偶者・子に著しい困難 | △ ハードル高 |
| Persecution waiver | 母国で迫害を受ける恐れ | × 日本ではほぼ不可 |
| No Objection waiver | 母国政府が「異議なし」の声明を出す | × J-1 clinicalは利用不可 |
最後の点は非常に重要です。ECFMGスポンサーのJ-1 clinicalで渡米した医師は、No Objection waiver(最も簡単とされるwaiver)を使うことが法律で明確に禁止されています。日本国政府が「異議なし」と言ってくれても認められません。
つまり、心臓血管外科医がJ-1 clinical後に残ろうとした場合、現実的な選択肢はConrad 30 programかIGA waiverの2つに絞られます。
Conrad 30 program ―― 各州30枠、医療過疎地3年勤務
各州が年間30枠まで、HPSA(Health Professional Shortage Area)、MUA(Medically Underserved Area)、MUP(Medically Underserved Population)に分類される地域で3年間フルタイム勤務することを条件にwaiverを推薦してくれる制度です。
実務的な流れ:
- 雇用主を見つける:HPSA/MUA/MUP指定地域の医療機関で、J-1 waiver受入のスポンサーになってくれる施設を探します。求人サイト(PracticeLink, Doximityなど)でも「J-1 visa waiver」のキーワードで検索可能です。
- 雇用契約を結ぶ:原則3年間の常勤契約。週40時間以上、患者ケアの直接従事が要求されます。
- 州のDepartment of Healthに申請:州ごとに様式が異なり、申請開始時期もバラバラです(10月1日開始の州が多い)。30枠は申請順に消化されるため、人気州(カリフォルニア、テキサス、フロリダなど)は数日で埋まることもあります。
- 州が推薦書を発行 → DOSへ送付:State Department of Healthが推薦書を発行し、米国国務省(Department of State)のWaiver Reviewに送ります。
- DOS Waiver Reviewの審査:問題なければ「favorable recommendation」が出ます。
- USCISへの提出(Form I-612):DOS recommendationを根拠にUSCISへwaiver取得を申請します。
- 承認通知(I-612 approval)の受領:これでようやく2-year ruleが免除されます。
- H-1Bへの切替:waiver承認後、雇用主がH-1B petitionを提出。米国内でCOSできれば$100,000は不要です。
ここで心臓血管外科医にとっての最大の壁は、ステップ1の「医療過疎地で3年間働ける雇用主を見つけること」です。HPSA/MUA/MUPに指定されている地域は、概ね地方の小規模病院や農村部のクリニックであり、心臓血管外科のような高次専門医療施設はそもそも稀です。
つまり、「Conrad 30は理論上は使えるが、心臓血管外科医にとっては適合ポジションを見つけること自体が極めて困難」というのが現実です。
IGA waiver ―― 連邦機関の推薦が必要
特定の連邦機関が「この医師には米国に残ってもらう国家的利益がある」と認めて推薦するwaiverです。医師に関連するIGAは主に次の4つです。
- VA(Department of Veterans Affairs):VA病院での雇用
- HHS(Department of Health and Human Services):特に研究領域での貢献
- ARC(Appalachian Regional Commission):アパラチア地域での勤務
- DRA(Delta Regional Authority):ミシシッピ・デルタ地域での勤務
実務的な流れ:
- 対象IGAでの雇用契約:例えばVA病院、ARC指定地域の医療機関など。
- 当該IGAにwaiver推薦を申請:機関ごとに様式が異なり、推薦理由(patient care、research contribution等)を詳細に書く必要があります。
- IGAがDOSへ推薦:推薦が出れば、Conrad 30と同じくDOS Waiver Review → I-612申請という流れになります。
ARC/DRAも地域要件があるため心臓血管外科医には適合困難です。心臓血管外科医にとってIGA waiverの現実解はVAとなります。VAには心臓血管外科部門がある施設も存在しますが、そもそも執刀件数や症例構成が大学病院とは異なるため、修練を終えたばかりのフェローが3年間VAで働くことが、キャリア上ベストなのかは個別判断が必要です。
申請にかかる時間とお金
- 期間:申請開始から承認まで6〜12ヶ月程度が一般的
- 弁護士費用:waiver申請だけで$5,000〜$10,000程度(事務所によります)
- フィー:DOS feeとUSCISへのI-612 filing fee(合計$1,000未満)
弁護士なしで進めることも理論上可能ですが、申請書類の整合性、雇用契約書の文言、州ごとのローカルルールなど、自分一人で完璧に対応するのは現実的ではありません。多くの場合、移民弁護士に依頼することになります。
結局のところ、J-1 clinical医師は何を覚悟すべきか
ここまで読んでお分かりの通り、J-1 clinicalで渡米した医師がそのまま米国に残るためには、
- 医療過疎地で3年間(Conrad 30)またはVAで3年間(IGA)の勤務
- 弁護士費用と6〜12ヶ月の申請期間
- そしてその後ようやくH-1BへのCOS
というプロセスを乗り越える必要があります。心臓血管外科のように高次施設に集中する専門領域では、「J-1 clinicalで入ったら、それなりの覚悟が必要」というのが偽らざる現実です。
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③ H-1B ―― かつての王道、今は過去の話
H-1Bビザは、2025年9月まではフェローで渡米する医師の事実上の標準でした。
- スポンサー:受入施設
- 期間:3年(更新で最大6年、cap-exempt employerは制限なし)
- 臨床業務:可能
- 2-year rule:関係なし(H-1B自体に2-year rule的概念はない)
ECFMG経由のJ-1 clinicalと違い、H-1Bは2-year ruleの対象外であり、トレーニング後もそのままH-1B延長やグリーンカード申請に進めるため、フェロー渡米組のほぼ全員がH-1Bを選んでいました。日本人IMGにとっても、J-1 clinicalの「呪縛」を回避できる、最も合理的な選択肢だったわけです。
H-1Bについては、スポンサーが病院そのものになります。(J-1 clinicalは病院が申請して、スポンサーはECFMGとなります)
しかし、2025年9月19日のトランプ大統領令により、新規H-1B申請に$100,000の追加料金が課されることになり、状況は一変しました。詳細はこちらをご覧ください。
📎 関連:[H-1B新規申請料$100,000の衝撃 ―― 日本の心臓血管外科医にとっての渡米ルート再考]
簡単にまとめると、
- 米国外から直接H-1Bで渡米するルートは事実上閉ざされた($100,000を雇用主に負担させるのは現実的に困難)
- 米国内でのChange of Status(COS)は$100,000免除(J-1 research → H-1Bなどは依然として可能)
- 医師に対する一律exemptionは2026年5月時点で発表されておらず、複数の訴訟が継続中(今後、変わる可能性は十分あります)
という状況です。「ECFMGなしでH-1Bでサクッと渡米する」というかつてのモデルは終わりました。今後しばらくの間、H-1Bは「米国に入ってから取得するビザ」になっていくと考えるのが現実的でしょう。
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④ O-1ビザ ―― 取得不可能ではないが、限られた人の選択肢
O-1は「extraordinary ability(卓越した能力)」を有する個人に与えられるビザです。最近、$100,000回避策として移民法事務所のマーケティングで取り上げられることが増えていますが、日本のIMGにとっては現実的なオプションとは言い難いのが実情です。
- スポンサー:受入施設または個人agent
- 期間:3年(更新可能、上限なし)
- 臨床業務:可能
- 2-year rule:関係なし
- $100,000:対象外
ハードルが高い3つの理由
第一に、認定基準が厳しいことです。O-1は次の8基準のうち3つ以上を満たす必要があります。
- 国際的に認められた賞の受賞
- メンバーシップが卓越した功績を要する団体への所属
- 主要メディアでの掲載
- 他者の業績を審査した経験(学会査読など)
- 学術分野における独自かつ重要な貢献
- 学術論文の出版
- 高給与
- 重要な役割でのcritical role
レジデント・フェロー段階の若手医師がこれを満たすのは決して不可能ではありませんが、相当な業績が必要です。
第二に、施設HRの構造的保守性があります。多くの大学病院HRは「レジデント・フェローへのO-1サポートなし」というpolicyを持っていることが多いです。O-1 petitionは弁護士費用と事務負担がH-1Bより大きく、却下リスクも高いため、「フェローはH-1B(またはJ-1)で十分」という標準運用が確立しています。
第三に、O-1を出してくれる稀な施設(Stanfordなど)であっても、米国臨床経験ゼロのIMGをいきなりO-1で雇うことはほぼありません。多くの場合、O-1は「米国内で既にclinical fellowship経験を積んだ日本人が、advanced fellowやattending positionに移行する際の昇進ツール」として機能しています。
ただし、H-1B大統領令発動以降、O-1ビザを比較的フランクにサポートしてくれる病院が今後増えてくる可能性はゼロではありません。こればっかりは現状読み切れません。前回記事で紹介した大手法律事務所であればO-1の相談にも応じてくれますので、業績次第ではトライしてみる価値はあると思います。
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⑤ Green Card(永住権)―― 実はもっとも確実な選択肢かもしれない
ここが今回、私が最もお伝えしたい部分です。
H-1Bが事実上閉ざされた今、日本にいる医師がお金と時間さえかければ、もっとも確実に米国に渡る方法はグリーンカードかもしれない、というのが私の現状認識です。
特にEB-1A(extraordinary ability)またはEB-2 NIW(national interest waiver)であれば、雇用主のスポンサーを必要とせず、日本にいながら自己申請が可能です。
EB-1AとEB-2 NIWの違いをざっくり言うと…
EB-1Aは論文数、査読数、臨床経験ともにピカイチな医師が申請可能で申請からグリーンカード取得まで1年程度で済みます。つまり、ハードル高いけど、取得が早い。弁護士費用は2-3万ドルかかると思って良いです。
EB-2 NIWは、そこそこの論文があれば多くの医師が申請可能で、申請からグリーンカード取得までは2−3年かかります。実際には、グリーンカードそのものを取得する前に、EAD(Employment Authorization Document) とAP(Advance Parole)と言ってグリーンカードの仮免許みたいな許可証が先に発行され、これらがあればグリーンカードと同様にアメリカに滞在し就労することが出来ます。おそらくこれらは申請から1年程度で発行されるので、EB-2での現状のpriority dateがCステータス(下記参照)なら実際には申請から1年程度で渡米が可能になります。
この辺りは煩雑なので、興味のある方は専門の弁護士と相談してください。前回記事に大手の法律事務所のリンクを掲載しています。
- スポンサー:不要(自己申請可能)
- 期間:永住
- 臨床業務:可能
- 2-year rule:関係なし(ただし2-year ruleが発動しているJ-1経験者はwaiverが必要)
- $100,000:完全に関係なし(ただし、弁護士費用は必要。カテゴリーにより1万ドルから3万ドルの幅があります。)
なぜ日本人が有利なのか
日本出生者のpriority dateは基本的にcurrent(待機列なし)です。インド・中国出生者は10年以上の待機が珍しくない中、日本人はI-140承認後ただちにAdjustment of Statusまたはconsular processingに進めます。これは日本人IMGの隠れた大きなアドバンテージです。
priority dateについては以下のリンクを参考にしてください。毎月状況は変わります。特にEB-2 NIWがC (current)で待機なしなのは、ここ最近(2026年3月から2026年5月現時点まで)の話なので、ここが延長される可能性は大いにあります。なおEB1は常にCです。
https://travel.state.gov/content/travel/en/legal/visa-law0/visa-bulletin.html
取得目安
業績がある程度ある先生であれば、2年を目処に取得可能というのが大手弁護士事務所の一般的な見立てです。
JTCVS/Annals/EJCTSなどの主要誌に筆頭著者複数本、国際学会invited talk、学会賞、editorial board経験などがあれば、EB-1A/NIWの審査でも十分戦える可能性があります。
詳しくは過去記事でも触れています。
📎 関連:[USMLEだけでは渡れない海 ―― 大統領令以後、日本人心臓外科医のための新・渡米戦略](https://www.opezanmai.net/usmle%e3%81%a0%e3%81%91%e3%81%a7%e3%81%af%e6%b8%a1%e3%82%8c%e3%81%aa%e3%81%84%e6%b5%b7-%e2%80%95%e2%80%95-%e5%a4%a7%e7%b5%b1%e9%a0%98%e4%bb%a4%e4%bb%a5%e5%be%8c%e3%80%81%e6%97%a5%e6%9c%ac%e4%ba%ba/)
おすすめのアクション
過去記事でも紹介していますが、外国人医師のグリーンカード取得を得意とする大手法律事務所が無料で査定をしてくれます。リンク内のfree evaluationでアンケートに答えると、1〜2日以内に自分がどのカテゴリーで申請可能か、費用がどれくらいかかるのか、詳細なレポートを返してくれます。
「自分の業績ではまだ足りないだろう」と思っている方ほど、一度査定を受けてみることをお勧めします。意外と「もう一歩で射程に入る」と言われたり、逆に「今のCVなら十分申請可能」と言われたり、自分一人で考えていても見えないものが見えてきます。
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自分はどのビザを目指すべきか
ここまで5つのビザを見てきました。最後に、現在の自分の立ち位置から逆算する形で整理してみます。以下は、あくまで2026年5月現在の私の意見です。
| あなたの状況 | 第一推奨 | 第二推奨 |
| 基礎・臨床研究のために短期渡米したい | J-1 research scholar | ― |
| レジデンシーから渡米したい | J-1 clinical(waiverの覚悟が必要) | H-1B(雇用主が$100k負担可なら) |
| USMLE済み、フェローで臨床に直行したい | J-1 research → H-1Bへ COS | Green Card自己申請(業績次第) |
| すでに国際的に強い業績がある中堅以上 | Green Card自己申請(EB-1A/NIW) | O-1(雇用主サポートがあれば) |
| 米国に長期的に残ることが確定している | Green Card一択 | ― |
H-1B大統領令以降、「いきなり臨床で渡米する」よりも「まずは何らかの形で米国に入り、その後H-1BへCOSする」または「日本にいながらグリーンカードを取得する」が望ましいルートになりつつあります。
特に長期滞在を視野に入れている方は、早い段階でグリーンカードを目指すという発想が今後ますます現実的な選択肢になってきます。お金(弁護士費用と申請費で合計$10,000〜$30,000程度が一般的)と時間(業績があれば2年、不足分を補うなら3〜5年)は確かにかかりますが、その先に得られるものは、H-1Bの不安定性とは比較になりません。
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おわりに
ビザの世界はとにかく用語が多く、しかも政策変化で頻繁にルールが書き換えられるため、一度勉強しても1年経つと内容が古くなってしまうという厄介な領域です。本記事も2026年5月時点のスナップショットに過ぎず、半年後には大きく変わっている可能性があります。
それでも、押さえておくべきポイントは比較的シンプルです。
- J-1 researchは2-year ruleが原則かからない、米国に入る入口として最強
- J-1 clinicalは2-year ruleが必ず発動、waiverには医療過疎地3年勤務が必要
- H-1Bはかつての王道、今は$100,000の壁で「米国内でCOSするためのビザ」になりつつある
- O-1は若手IMGには現状ハードルが高い
- Green Cardは時間とお金さえあれば、日本にいながら自己申請できる最強の選択肢
留学計画を立てる際は、「USMLEを取ってからどこかに応募する」というリニアな発想ではなく、「自分の業績と時間軸を考えて、どのビザの組み合わせが最適か」を逆算で考えることが、これからの標準姿勢になっていくと思います。
何度も繰り返しになりますが、本記事は情報提供を目的とした概観であり、個別案件への法的助言ではありません。実際の申請判断は必ず米国移民弁護士との個別相談に基づいて行ってください。
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関連記事
- [H-1B新規申請料$100,000の衝撃 ―― 日本の心臓血管外科医にとっての渡米ルート再考](https://www.opezanmai.net/h-1b%e3%83%93%e3%82%b6%e6%96%b0%e8%a6%8f%e7%94%b3%e8%ab%8b%e6%96%99100000%ef%bc%881500%e4%b8%87%e5%86%86%e8%b6%85%ef%bc%89%e3%81%ae%e8%a1%9d%e6%92%83-%e2%80%95%e2%80%95-%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%81%ae/)
- [USMLEだけでは渡れない海 ―― 大統領令以後、日本人心臓外科医のための新・渡米戦略](https://www.opezanmai.net/usmle%e3%81%a0%e3%81%91%e3%81%a7%e3%81%af%e6%b8%a1%e3%82%8c%e3%81%aa%e3%81%84%e6%b5%b7-%e2%80%95%e2%80%95-%e5%a4%a7%e7%b5%b1%e9%a0%98%e4%bb%a4%e4%bb%a5%e5%be%8c%e3%80%81%e6%97%a5%e6%9c%ac%e4%ba%ba/)
- [小児心臓外科フェローのポジションを見つける ―― 日本にいるあなたが米国に渡るために](https://www.opezanmai.net/%e5%b0%8f%e5%85%90%e5%bf%83%e8%87%93%e5%a4%96%e7%a7%91%e3%83%95%e3%82%a7%e3%83%ad%e3%83%bc%e3%81%ae%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e3%82%92%e8%a6%8b%e3%81%a4%e3%81%91%e3%82%8b-%e2%80%95/)
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参考リンク
公的機関
- USCIS Exchange Visitors (J-1) overview:https://www.uscis.gov/working-in-the-united-states/students-and-exchange-visitors/exchange-visitors
- USCIS Conrad 30 Waiver Program:https://www.uscis.gov/working-in-the-united-states/students-and-exchange-visitors/conrad-30-waiver-program
- S. Department of State J-1 Waiver Review Division:https://j1visawaiverrecommendation.state.gov/
- ECFMG J-1 Visa Sponsorship:https://www.ecfmg.org/evsp/
- USCIS H-1B Specialty Occupations:https://www.uscis.gov/working-in-the-united-states/h-1b-specialty-occupations
- USCIS O-1 Visa Information:https://www.uscis.gov/working-in-the-united-states/temporary-workers/o-1-individuals-with-extraordinary-ability-or-achievement
- USCIS EB-1A (Extraordinary Ability):https://www.uscis.gov/working-in-the-united-states/permanent-workers/employment-based-immigration-first-preference-eb-1
- USCIS EB-2 NIW (National Interest Waiver):https://www.uscis.gov/working-in-the-united-states/permanent-workers/employment-based-immigration-second-preference-eb-2
グリーンカード自己申請に強い法律事務所
- WeGreened (NPZ Law Group):https://www.wegreened.com/
- High Skilled Immigration (Chen Immigration Law Associates):https://www.highskilledimmigration.com/
Skills List(日本)
- S. Department of State Exchange Visitor Skills List:https://travel.state.gov/content/travel/en/us-visas/study/exchange/exchange-visitor-skills-list.html
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本記事は2026年5月時点の情報に基づきます。ビザ制度・政策・判例は流動的であり、最新情報については上記の公的ガイダンスおよび移民弁護士に確認してください。